ゆずこの形見

2014年9月9日 読書
中編小説が2本収録されていて、2本ともお別れについてのお話です。

「ゆずこの形見」 伊藤たかみ

一本目は、最愛の妻が突然死してしまいます。
なんと死んだ時に一緒にいたのは妻の愛人。
出張と偽って妻が出かけたのは、愛人との北海道旅行の為でした。
旅行先のホテルであっけなく死んでしまった妻。
妻に先立たれた悲しみと、妻が浮気をしていた憎しみが織り交ざってスッキリしないまま日々を過ごす主人公。
かといって、浮気相手をボコボコにするようなタイプではない主人公。
亡くなる前に妻が作って冷凍してくれていた料理も手をつけられずにいたのですが、食べていく事で心に折り合いをつけていこうとします。
浮気相手と北海道で選んだかもしれない冷凍している「毛ガニ」だけは、どうしても妻自身であり妻の形見のような気がして、浮気相手の男に食べさせて妻を成仏させてあげたいような気持ちになる主人公。
浮気相手に毛ガニを食べさせるために試行錯誤します。

2本目は、マンネリ化してしまったカップルのお別れのお話。
ヒートアップするケンカもなく、ゆっくりとお別れのゴールが見えていながら、日常生活を過ごす主人公。

人は、辛い時、落ち込んだ時に、アルコールに走ったり、宗教に頼ったり、自己啓発本を読んでみたり、スピったりしがちですが、この主人公たちは「夢見入門」という方法で自分の気持ちと向き合おうとします。
「夢見入門」とは、自分の睡眠をコントロールして幽体離脱のような体験をしながら、自由自在に色々な場所を行き来し、過去に拾い忘れたものを集めていくような行動です。
本人も胡散臭いと気が付きながらも、実行していきます。
少しでも癒しになるなら騙されてみてもいいと思えるほど心が弱っている状態ですが、泣いたり叫んだりもできない性格の主人公たち。何かを諦めながら、気持ちを立て直そうとしていく姿勢は、なかなかの切なさです。
どちらもどこか抜け感のある主人公のキャラクターのおかげで、全体的に優しい仕上がりになっています。

2本ともに優しく切ないお話でした。

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