10年ぐらい前でしょうか。中東の女性が未婚という身分で妊娠してしまい、罰として首まで土に埋められて、出た頭の部分をめがけて投石して殺すというニュースをたまたま見ました。
その時は、なんとむごい事をするのだと驚きました。そして疑問に思ったのは、独身の時に妊娠すると死刑になるとわかっていて妊娠させる相手の男性っていったい?良心はないの?と思ったのです。
そして月日は流れ、その行為が「名誉の殺人」であったという事を知りました。
これはその「名誉の殺人」について書かれた本です。

「生きながら火に焼かれて」 スアド

中東のシスヨルダンの小さな村に生まれたスアドさん。
男尊女卑が激しい場所です。
女性は常に男性の為に働き続け、男性には絶対服従。父親からは、暴言と暴力を受け続ける日々。知恵がついては婚期を逃すと言われ、学校にも行かせてもらえません。
結婚前の女性は男性と視線を交わす事も禁止。結婚前の恋愛や性交渉なんて、もっての他。言葉でも交わそうものなら娼婦呼ばわりされて、家族の恥となり肉親の手によって殺されてしまいます。この行為を「名誉の殺人」と呼びます。
この名誉の殺人により、女性を殺しても男性は罪に問われないというものです。
男性にとっては女性は家畜以下のような存在なんです。
女性は、たとえ結婚できても男性には絶対服従。そして男の子を生まなければなりません。男の子を生む事こそが女性にとっての使命。女の子を続けて生むような女性は夫に捨てられてしまいます。たとえ男の子を生んでも、また続けて女の子ばかり生むようであれば産んですぐ、自らの手で殺さなくてはなりません。

昔、TVのニュースで妊娠させた男性に良心はないの?と思ったと書きましたが、この本を読んで村全体の男性が女性を家畜以下の扱いするのが当然であるという事を知って理解できました。あたりまえの事が国によって、また地域によって違うんです。もちろん中東全ての国にこういった「名誉の殺人」が行われる訳でなく、一部の国の一部の地域という事です。
ちなみにヨルダンのキング・アブダラ2世国王は、スタートレックの大ファンでいらっしゃって、ヨルダンにスタートレックのテーマパークを建設されるというお話でしたが、中東といっても地域によって文化や貧富の差が想像できないくらい激しいのだろうなぁと感じました。

タイトルの「生きながら火に焼かれて」ですが、スアドさんは上に二人のお姉さんがいて、姉妹は年功序列で上から結婚していかなければならなくて、一番上のお姉さんは結婚したのですが、次のお姉さんの容姿がイマイチだったようで、なかなかスアドさんは結婚する事ができなかったんです。
そんなある日、家にスアドさん目当てで結婚を申し込みにきてくれた男性がいたのですが、父親が上から順番だと断りました。スアドさんは彼の事が気になりはじめました。いけない事だとわかっていても彼の事が気になって仕方なくって、朝出かける姿を眺めたりしていると、突然彼から声をかけられ、何度か秘密のデートを繰り返すようになりました。そしてスアドさんが妊娠。妊娠がバレる前に彼は逃げ出し、妊娠が家族にばれてしまったスアドさん。訪ねてきた義理のお兄さんに頭からガソリンをかけられて火をつけられてしまいます。

ガソリンをかけられるより恐ろしいなぁと思った部分は、これだけ村の男性は女性たちの事を無残に扱ってきているにも関わらず、スアドさんは好きになった男性だけは違う。自分を守ってくれる存在だと思い続けているピュアな心が大変痛々しかったです。本を読んでいてスアドさんが妊娠したあたりから、少し気分が悪くなってしまいました。

スアドさんは生まれた我が子は手離しますが、西洋で手術を繰り返し仕事までできるような状態になります。そうすると自分の好みの服が着たくなります。そして男性に恋をします。彼に彼女がいたのですが、その人の恋人になりたくて尽くします。その後、彼とつきあって結婚します。子供が欲しくなって妊娠します。そうすると、もう一人欲しくなって妊娠します。そして、皮膚に火傷の跡があるけれど夏に水着が着たくて仕方なくなります。手離した息子とも一緒に住みたいと思いはじめるようになるのです。

人間ってどこまでも貪欲な生き物なのだなぁと感じました。
もちろん自分の事も然り。
満足できていた事でも慣れてしまうと、あたりまえになってしまんですよね。

この本は10年ほど前に初版が販売されましたが、今でも「名誉の殺人」という言葉は時々耳にします。

人の人生の縮図を見て「文化のあたりまえ」と「あたりまえの幸福」の怖さを感じた一冊となりました。

コメント

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索